【第5回】
◆絡まり、ちぎれ、貼り直し。ライター泣かせのカセットテープ!
――テープ起こしを始められた当時の思い出についてお伺いします。
Kさんは1972年にこのお仕事を始められ、手書き→ワープロ→パソコンと、大きな変化を経験してこられたわけですが、当時を振り返ってみていかがですか。
Kさん まさに産業革命ですよね。最初はオープンリール式のとても大きなテープレコーダーで、音源は円形のリールに焼き込むタイプのものを使っていました。それを機械に入れて、一言聞いてはガチャッと手で止めながら原稿を書く。この繰り返しでした。
Nさん 本当にすごい。
Kさん その後カセットテープになって小さくなり、今使っているフットスイッチ(SONY BM-76)を使うようになりましたが。とにかく、テープがよく絡まるんです。
Iさん 絡まったり、切れたりね。
Kさん 特に150分テープはとても薄いから、足でガチャガチャ踏むとすぐに絡まって、何度電気屋さんに飛んだか。結局、セロハンテープよりも粘着力の強いメンディングテープまで買って、切れた箇所を貼りながら作業していました。
Iさん 修理するときに、ネジの付いたカセットテープはドライバーで外せるけれど、そうでないものは分解するのが大変でしたよね。
Kさん そうそう。たとえば熱で接着剤のようにくっ付いてしまっているものは、バキバキッと割らないと中のテープが取り出せないの。だからネジの付いた空のケースだけ2~3個手元に持っていて、中身だけ移し替えていました。
Iさん 絡まったテープを直すのも怖くてね。余計に絡んだら大変だから。
Nさん 怖いですね……。
(ネジを外して修理。ホント怖い……)
Kさん それを直すだけで数時間掛かることもある。それに、せっかく直してもしわの寄ったところがウワンウワンッとなって、聞こえにくくなるので大変でした。
Nさん すごく精密な作業だったんですね。
Iさん 泣きそうになっちゃう(笑)。
――ワープロが日本で初めて販売されたのが1979年ですから、お仕事を始められて、しばらくは手書きだったということですね。
Kさん 当時、英雄(HERO)という500円くらいの万年筆がありまして、それを5本くらい買っておくんですよ。私は特に筆圧が強かったからか、万年筆で書いているとペンの先が駄目になるのね。それこそ当時は原稿何千枚という時代だから、ほとんど殴り書きですよ。ちゃんとマスに一字ずつ入れられる方もいれば、私みたいにずれて書く人間もいますからね。手書きのころは、それはひどい字でした。
――Iさんが始められた平成2年は、もうワープロが主流でしたか。
Iさん そうです。会社から「ワープロは何をお使いですか?」と聞かれて。自分のワープロを使っていました。
――そのころは、わりと皆さんワープロは持っていたんですか。
Iさん 私はもともとワープロ教室に通っていたので持っていましたが、まだ1台二十数万円のときだったので、特に用途がなければ普通の家にあるものではなかったかもしれません。
Nさん そういう特技があったから、今のお仕事につながったんですね。
Iさん 何の仕事をするにしても、ワープロはできたほうがいいなと思っていたので。あのころは、3.5インチのフロッピーディスクを会社に持って行き、その場で原稿を印刷して提出していましたね。
Kさん そう。だから締め切りの日は、フロッピーディスクをカタカタいわせて家から駅まで走っていましたもんね。納品に間に合わないと大変だから。
◆真っ赤になって返される原稿。それでも厳しい校閲者から多くの学びを得た。
――Iさんにとって、これまでで最も劇的な変化は何ですか。
Iさん 音声がカセットテープからデジタルに変わったことと、基本的に会社に行かなくてよくなったこと。でも、会社に行くのは好きだったんです。週2回、ほかのライターさんもいっぱい来ているから、校閲してもらっている間にみんなと話をしたり、ランチをしたりしていました。校閲者が厳しい人だったから、原稿が真っ赤になると慰めてもらっていて(笑)。
――ライター同士の横のつながりがあったんですね。
Iさん それがなければ続けられなかったと思います。
Kさん 私は会社に行くときに、ドアの前で、「私はバカなんだ、私はバカなんだ」って二度くらい思ってから入っていました(笑)。
一同 (笑)
Kさん そうしないと、校閲者に打ちひしがれて帰ることになる。当時は手書きだったものですから、担当者に「ちょっと来て。この漢字、どういう書き順で書いた?」、「ああ、だからこういう形になるのね。正しくはこうだよ」とか言われて。
――えっ、書き順まで?
Kさん ええ。でもね、ありがたいこともいっぱいありました。厳しく言ってもらえて学んだことも多くあったから。きっと仕事が嫌いだったら続けられないでしょうけれど、みんな言われていることだから仕方ないんだって思っていました。
――実践を積まれていく中で、いろいろとご自身で勉強されていったのですね。
Kさん ただ、担当者がマイペースな方で、夕方になってもなかなか校閲が終わらないの。ああ、むこうを向いている間にもう1枚いけるのになあ、なんて思って(笑)。校閲が終わったら原稿を一枚一枚取っていくんだけど、「こんなにあるのに、まだ1枚……」って、そういう悲しさもいっぱいありました。
――校閲が終わるまでひたすら待つ(笑)。
(今じゃ考えられない!)
Kさん その人が原稿を読みながら、「うーん、いいこと言ってるなあ」なんておっしゃっているのね。「ええーっ! そんなことより早く字を見て!」と心の中で思って(笑)。
Nさん イライラしますね、それは(笑)。
Iさん 全体的に厳しい校閲者が多かったですよね。当時は校閲者から返ってくる真っ赤な原稿を見て、自分で修正していたんです。だからこそ身につきましたね。
Nさん やっぱり、自分で直さないと素通りになりがちですよね。
(第6回へ続く)
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