【第7回・最終回】
◆大事なのは、言葉を蓄積していく力
――Iさんは日ごろから医薬用も担当されていますが、やはりほかの案件に比べて難しさはありますか。
Iさん 実は私、医薬用は結構好きなんです。用語さえ押さえれば変な言い回しが少ないからやりやすいですね。
Nさん 確かに、医薬用はわりと資料が用意されている印象があります。
――原稿を作るときに、特に気を付けていることはありますか。
Iさん 一般用にも言えることですが、知らない用語が出てきたら「自分の辞書」に加えていくようにしています。
Kさん 自分の辞書というのは、単語登録とは違うの?
Iさん もちろん単語登録もその都度していますが、それとは別にあいうえお順、ABC順に並べた辞書を自己流で作っています。自分にしか分からない感じのものですが、一度やっておくとあとが楽なので。
――では、覚えた言葉はその辞書にインプットされているということですね。
Iさん ええ。「前にも聞いたことがあるな」と思った言葉は辞書を見返して確認しています。
――自分たちも校閲をするたびに作りたいと思うけれど、なかなかそこまで手が回らないというのが実際のところです。聞いたことがある言葉なのに、「あれ、なんだっけ……」ともう一度検索するのはもったいないですよね。
(Iさんの辞書)
Kさん 私も手書き時代にひたすら書き続けたことで、自然と語彙が増えていきました。
Nさん そういった日々の小さな積み重ねが、現在のお仕事に生かされているんですね。
Iさん それは間違いないです。
◆新人ライターへのメッセージ
――最後に、新人ライターへのアドバイスをお願いします。
Nさん 自分が受けられる案件を絞らないようにすることが大事だと思います。与えられるお仕事の一つ一つに、「この案件はぜひあなたにやってもらいたい」という会社側の意向があるので、その判断に身を任せつつ、自分自身を鍛えていくことで、自然と速さは身に付いていくはずです。
原稿処理枚数を上げたかったら、やはりタイピング速度を上げる練習はしたほうがいいです。打つのが速ければ、その分見直しに時間を掛けられるので、表記のゆれや字抜けなど、基本的なミスを減らすことができます。句読点が正しく打てているか、改行ができているかなど、細かいところをきちんと押さえていくことで、起こしたときのリズムを自分の中で作れるようになると思います。
Iさん 上達に秘策や近道というものはないので、やはり数をこなしていくことが大切です。理屈では分からないことっていっぱいあるし、自分なりの方法で言葉を蓄積しておくとすごく楽だと思うんです。医薬用をはじめ、特殊な用語が出てきたらノートに書き留めておくと、次に案件が来たときにやりやすいです。
Kさん 本当にこの仕事って、好きでなければできないと思う。今はAIをはじめ、時代とともに新しいことがいろいろと入ってきていますよね。だからきっと興味が持てる内容も多いと思います。
それと検索。たとえば○○先生について知りたいと思ったら、Wikipediaを見るだけではなく、その先生が書いた論文も読んでみる。検索が十分にできると、ほかのことでも役に立つ情報が得られますから。
それから句読点、改行のやり方については、いまだに私も悩むことはしょっちゅう。でも、そうやって悩みながらやることが楽しさにつながると思うんです。いやがらずに、いろいろとやってみるうちに自分のスタイルができて、きっとこの仕事が楽しいと思えるはずです。
――世の中の動きに興味を持つことと、もっとうまくなりたいという気持ちが大事。
Kさん もっとうまくなりたい。でも、極めることはない。「極めた」という気持ちにならないところがこの仕事の醍醐味だと思います。
私は今年で46年目になりますが、まだこんなにも分からないことや迷うことがあるのだと気付かせてくれる。だからこそ、続けてこられたのだと思います。慣れに甘えて、またいつもの調子でやればいいんだというふうにやっていたら、面白くないでしょう。科学的な内容なら情報重視でまとめる、文化系の座談会ならその人の個性が出るように語り口を生かすなど、案件ごとに自分なりに工夫をしていくともっと楽しくなると思います。
――当社ではライターと校閲者の2人体制で1つの作業に臨んでいます。これからもそれぞれ補い合いながら、お客様に喜んでいただける原稿を一緒に作っていきましょう!
座談会「おこしびとに聞く!」最終回となります。
最後までお読みいただきありがとうございました。
(第1回を読み返す)
(第2回を読み返す)
(第3回を読み返す)
(第4回を読み返す)
(第5回を読み返す)
(第6回を読み返す)